『マトリ』厚労省麻薬取締官/瀬戸晴海
おはようございます😉
『マトリ』厚労省麻薬取締官/瀬戸晴海
激増する麻薬犯罪に敢然と立ち向かうのが厚生労働省の麻薬取締官、通称「マトリ」
麻薬、覚醒剤など人間を地獄に陥れる違法薬物の摘発、密輸組織との熾烈な攻防”運び屋”にされた女性の裏事情、親から相談された薬物依存症の子供の救済、ネット密売人の正体の猛追、危険ドラッグ店の壊滅。40年間も第一線で戦って来た元麻薬取締部部長の”瀬戸晴海”が薬物事犯と捜査の全てを明かす。マトリには、約300名の麻薬取締官が存在している。麻薬取締官は薬物犯罪捜査と医療麻薬等のコントロールに特化した専門家で、半数以上を薬剤師が占めている。おそらく世界最小の捜査機関である。”少数精鋭の専門家集団”プロフェッショナルな頭脳集団”となることを目指している。
日本での麻薬を取締る組織としては、「マトリ」「警察」「税関」「海保」(海上保安庁)の4機関があり、それぞれが対策し、時として合同捜査を実践している。世界トップレベルの取締機関である。日本での覚醒剤の始まりは1941年、一種の眠気除去・強壮剤として「ヒロポン」が軍需品として利用される。これが戦後、民間に大量放出され社会問題化する。この頃が”第1次覚醒剤乱用期”
その後、取締規則が次々に制定される。1960年ヒッピー文化の影響で大麻乱用が始まったのだ。
日本万国博覧会が開催された頃、LSDを麻薬に指定「シャブ時代」の到来”第2次覚醒剤乱用期”(1970年~1994年)
「シャブ」の語源。著者がマトリとしてデビューしたての頃、ヤクザを引退した親分から聞いた話し。親分は戦後の覚醒剤状勢の生き字引のような人物で「兄ちゃん、勉強しいや」と前置きした上で次のように語ったそうだ。「60年代、大阪の尼崎にあるX組にサブロウと言う男がいた。この男は韓国から密輸された結晶型”ヒロポン”の中間売人で、せっせとヒロポンを配達していた。仕事熱心で、その筋では誰もが信頼を置いていた。そのうちヒロポンが届くことを”サブロウが来る”、さらには”サブが来る”と言うようになった。そしてサブがシャブに訛り”シャブが届く”に変化。まもなく覚醒剤自体を”シャブ”と呼ぶようになった。「骨までしゃぶる」と言うのは、後にマスコミが言い始めた話しではないか。」と。
1995年阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、Windows95日本版発売。ここから現在が”第3次覚醒剤乱用期”だそうだ。まず重要なのは日本における覚醒剤の価格、覚醒剤1グラムあたりの末端価格は現在6万~7万円。世界中でこれほど高値で取引されている国は無い。東南アジア各国の5倍~10倍になる。そして、複数の反社組織が暗黙のカルテルを結び、昭和40年代から維持され続けている。
次に、日本の覚醒剤需要は一般人が想像する以上に多い。日本で50万人の覚醒剤使用者がいると推定する情報分析官もいるほどだ。
「日本に覚醒剤を持ち込めば必ず売れる。しかも、どの国よりも高値で」と言う共通認識が出来上がったのだ。毎年、約243万人も増える薬物使用者。全世界の麻薬の取引総額は50兆円規模に膨張したと推測される。
アフガニスタンが世界中のヘロインの供給をほぼ独占する勢いである。ヘロインの売却益は世界的なテロ組織の資金源となり、各国のテロ活動を下支えする危険性があると国連は警告している。薬物犯罪は社会の変化に敏感に反応し、日ごと進化している。グローバル化やITの進化にこれほど迅速に反応する犯罪は無いだろう。
2014年、池袋や天神で起きた「暴走事件」はまだ記憶に新しいところだ、池袋の事件ではヨダレを垂れ流した異様な運転手の映像も記憶している。
日本・イラン間のビザ相互免除免除協定締結後(1974年)多くのイラン人が来日し、その一部の者が偽造テレカから薬物を販売するようになった。日本人の売人は強面で恐いが、イラン人は片言の日本語で愛想も良いので若者は買いやすいと思っているそうだ。勿論、仕入れ先は日本の反社組織だ。これらが横行した為、イランとのビザ無し協定は1992年に終了したが不法滞在者数は4万人を越えた。
現代では人を会さずダークネットで売買されていて閉じ籠りでも金さえ有れば手にはいる。”合法ドラッグ”や”ハーブ”として公然と店を構えて販売していた、”お香”と偽って堂々と販売していたのだ。次から次に新しいドラッグが出回る。当時、マトリには指定薬物に関する取締権限がなかったのだ。
ゲートウェードラッグとはコカイン、へロイン、覚せい剤など他の更に強い副作用や依存性のある薬物の使用の入り口となる薬物だ。大麻はこれになりやすく、世界では現在、相次いで大麻の合法化が進んでいる。その代表が、カナダである。2018年10月、カナダは娯楽目的の大麻使用を完全に合法化した。世界的には、ウルグアイに続く2カ国目であり、これにより、カナダの成人は連邦政府により認可された生産者から大麻を購入したり、実際に使用したりすることが可能になった。まず、すでに取り締まることができないほど、大麻が社会に蔓延してしまったという実情がある。ヤミ市場から日の当たる場所へ大麻を引きずり出せば、大麻取引から資金を得ていた犯罪組織は弱体化し資金源を絞る。さらに、タバコや酒のように大麻に対して課税すれば、経済的に自治体が潤うのだと言う苦肉の策なのだ。
地を這うような捜査や、猟犬気質が彼らの原点にあること、常に想像を絶する難関が立ちはだかる事を忘れない。過酷で末端現場を経験すればするほど、水際対策や国際連携の必要性を感じる。そして彼らは「誰がやるんだ。俺達がやる!」このスピリッツを絶対に忘れない。
この本の中で紹介していた、1960年の映画、未VHS/DVD化で有料動画配信も行われていないが、三國連太郎主演映画「白い粉の恐怖」を是非観てみたい。