飯島企画業務日誌

『占』木内昇

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おはようございます😉
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図書倶楽部
『占』木内昇
男尊女卑という不合理な概念がまだまだ幅を利かせていた頃の大正~昭和初期を舞台に、多様な占いに翻弄される女性たち。7つの短編全てが独立しているのではなく、少し絡み合う所もより楽しめた

好きな男の心が知りたくて占いジプシーになってしまった翻訳家、桐子(とうこ)。
彼女は自然に、心のままに、自分でも気が付かないうちに選び取っている、そう言う進み方が出来ないことの煩わしさに捉われる。そこで抱える悩みにどんな意味があるのだろうと思えば、余計に身体が重くなったってしまった。

千里眼に成ってしまったカフェ勤務の杣子(そまこ)は何一つ特徴の無い、ここに居るのにどこにもいない様な影の薄さを纏っていた。最初は千里眼で見えたままを語っていたが、本人が納得出来ないと何度でも来るのが面倒になり相手が求めるものを語った。どれが真実なのかなんて、誰にも解らない。真実をどう受け止めるか?これを知った杣子は体にうずくまっていた澱(おり)が溶けて流れていった。

知枝は、学校には入れたものの、瞬く間に落ちこぼれ英語の家庭教師につくことになり、一話の”桐子”の家で勉強することになった。この家の仏壇の若い青年の写真を見て、彼の話を聞けば人柄や、博識で真摯な様に魅了されだが、その青年は桐子の祖父だったが、もっと知りたいと”口寄せ”にはまっていく。事実は美しい昔話では無かったがどんな男性と添い遂げるかを、道の先に明るい光が灯った。

自分は普通(凪)の家庭と思い込んでいて、ご近所の家庭の優劣を双六に見立てて自分の幸せ度を確認する主婦、政子。こんなことを始めなければ、知らなくて良かった、事実を知ることになる。
他人の家に勝った負けたと一喜一憂しては生きる実感を得ているのだ。

綾子は大きな薬品会社として雇われた。若くて美しい彼女が人一倍早く正確に仕事をさばくと、周りの男達は綾子を煙たがった。小娘より劣っている男、職歴も遥かに長いのに仕事が出来ない男は男として見ることが出来ず、父の築いた一家、大工の深見組を継ぐ。しかし、そこで扱うのもまた男達と言うことを失念していた。やはり問題は次々に現れ、そして”喰い師”に通い始める。喰い師は只、愚痴を聞くだけで何も言わない。しかし翌日になると綾子の気持ちがスッキリする。言うことで心が整理されるのか?頭でなく心のままに行う、そうやって生きにくさを抱えて行く覚悟ができた。このときは胸に曇りなく、自分に問いかけても、喰い師に思いを霧にしてもらうものが一欠片も見当たらなくなった。

町の外れの鷺行町に朝生屋という遺影を本物以上に描く男がいる。ここの遺影は評判でそれを見ていると寂しくないと言う。”恵子”の叔母もここで描いてもらい、夫が「今にも額から出てきそうで、奇妙な心地だった」と言っていた。
綾子の同級生で夫婦二人暮らしの、中々子供を授からない恵子のもとに猫を追いかけて男の子が庭に入ってきた。”ゆうた”と言う四歳児。二階の物干しから見ていた恵子に”お空に行く台だね”と言う。そして、この暑い時季に黒い背広に山高帽の、ひどく痩せた白い髭の老爺が「帰るぞ」と連れて帰る。子供のいない恵子は、ゆうたがまた来るのを待ちわびるようになる。
あっちに渡らず、画をまとって魂が生き直してしまう。そして恵子のゆうたに対しての優しさが仇となるが、そのあと恵子が身ごもった。

佐代は二十歳を迎えた今に至るまで特にやることも無く花嫁修業として家事を手伝うばかりで退屈し、絵に興味があったわけでも無いが気晴らしになればと、甘い父に稽古代を無心して通い始める。その絵画教室の富久子は主婦でありながら個展も開く著名な画家だった。ここに出入りしていた画材屋が”武史郎”だった。間もなく教室後、休日に共に出掛けるようになるが武史郎に婚約者がいる?と言う話を聞き不安になる。そこに「占い」の文字が目に留まった。
初めに鑑定したのは”読心術”佐代を通して武史郎に潜る。読心術は未来を見る力はない。チョッとした行動で未来は変わってしまう。本当に今現在だけの事。最後に千里眼の杣子が語りかける、認められる事だけに囚われるのは、さもしい事なのだ。

先をも見えぬ中で占いに縋る女性たち。僅かばかりの希望を求め、身も心も楽になるはずが…何故、他者との関係で、そこまで不安になるのか。これに立ち向かって克服しない限り同じ事の繰り返し。
いつの時代でも人間は不安を覚えると形ないものに縋り付いてしまう。自分の望んだ占いには喜び、期待していない答えには疑心暗鬼で望む答えにたどり着くまでさ迷い、深みにはまってしまう。
占いに行くのは自分の気持ちを後押ししてもらいたいから。

読み終えてしまうのがもったいなくて、じっくりと読んだ。 一編、読み終えては、物思いに耽る。どの女性たちも、こう教えてくれる。 幸せは、他者から与えられるものではなく、 私達は自分の人生を、あらゆる工夫を凝らして、自分の選択と行動で生きていくのです。
人が占いの果てに見つけるもの、それは自分自身なのだから。

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