『ユヴァル・ノア・ハラリ』後編
おはようございます😉
『ユヴァル・ノア・ハラリ』後編
問い■現代社会を特徴付ける緊急性──14世紀のペストと現代の情報時代との違いは、もちろん速度です。こんにちとは対照的に、14世紀には「緊急」という概念は存在しませんでした。ところで、緊急性は想像もしていなかった世界を作り出します。「フィナンシャル・タイムズ」紙で、この問題について「『暫定措置』というのは、非常事態が終わってもなおしぶとく残ろうとする」「いまや世界中すべての国が、大がかりな社会実験のモルモットだ」と書いていらっしゃいましたが、誰がこの実験をコントロールしているのでしょうか?
答え■こうした社会実験のいくつかは、新しい問題を解決するために現在の社会状況から自然発生的に現れてきたものです。また、中には指導者たちによって注意深く管理されているものもあります。どのような社会実験を、どのような条件でおこなうか、誰かが選んでいるのです。したがって、これまでになく政治が重要になっています。この危機によって、政治家たちは巨大な権力を託され、平常時であれば何年もの闘いを要することをわずか数日で実現できるようになったからです。
問い■たとえば、ヨーロッパでは8つの携帯電話事業者が顧客の位置情報データを各国政府に提供することを決めましたが、反論はまったくありませんでした。
答え■政府はホテルやレストラン、航空会社を救済するのとまったく同じように、これらの機関も救済すべきです。まったくありそうなことですが、政府がもし自分の気に入る機関だけを援助するなら、国の文化状況は数ヵ月で一変してしまうでしょう。もっと一般的に言って、時間と緊急性の問題は、皮肉なパラドクスに従っています。人類の生活環境が改善されればされるほど、緊急事態も頻発するようになるからです。14世紀フランスの「あたりまえ」について考えてみましょう。当時は医療システムに頼ることはまったく不可能でしたし、国の補償を受けられる人はいませんでした。暴力が偏在し、権力者の間では信じられないような腐敗が横行しており、人々は飢えに苦しんでいました。もし当時、ペストではなく新型コロナウイルス感染症が発生したとして、誰が気にかけたでしょう? 誰も気にかけはしません。感染症で人口の1パーセントが死亡する? そんなことは、まったくあたりまえのことなのです。公共のための緊急事態という概念はそのころまだ知られていませんでした。反対に現代世界はきわめて洗練された機関──病院や学校など──のネットワークによって特徴づけられます。それらは、想像できないほど人々の生活環境を改善しましたが、同時に社会をより脆弱にしました。こんにちではどんな些細な感染症でも我々は非常に多くのものを失います。緊急性という概念は、こうした洗練と脆弱性に応じて発展しました。
記事画像https://courrier.jp/news/archives/196872/