図書倶楽部
『ザ・ロイヤルファミリー』早見和真
競馬会の物語で、特に”馬主”をメインに語られています。
競馬に余り興味のない私でも引き込まれていきました。競馬会の専門用語も出てくるのですが、堅苦しくなく自然に理解出来る構成になっています。
主人公は”栗須栄治”母を幼くして亡くし親父に育てられました。親父は税理士で兄を含めた2人を育ててきました。真面目で律儀な親父を見て育ち、いずれは親父の仕事を手伝いたいと2人の兄弟は税理士の資格を取ります。
兄は親父の元に帰り仕事を手伝っていましたが、東京での仕事にやりがいを感じていて、栄治はタイミングを失い、父親が他界してしまいます。
そして、仕事をする意欲が無くなっていた時に新たな繋がりが生まれます。
疎遠になっていた、大学時代の友人と偶然出会い、その友人の叔父さんの”山王構造”に、ひょんなことで出会い、気に入られて山王社長の元で働く事になります。自分の親とは全く似ていないのに、手だけが瓜二つでこの社長の歳が亡くなった親父の歳と重なり、一度は途切れた物語の糸が再び紡がれたような、不思議な感慨を覚えます。
税理士資格を有している事から、当然、入社後は財務を任されると思っていたが、所属は経理では有ったものの、必要とあれば、営業、企画ときには販売促進のチラシ作りも、つまり「何でも屋」と言い訳です。
これから上がって行こうと言う企業の独特な勢いが有りましたが、社長との距離は遠ざかっています。社長は典型的なワンマンでありながら、業界の先行きを見抜く力、特に法律の本質を見抜く力に長けていました。
数年後、社長付きのマネージャーが突然退職し、その後任に栗須栄治が選ばれ、この頃になると名前がカタカナで変換され”クリス”と呼ばれるようになっていました。社長専属マネージャーとなることで、自分が失ってしまった何かを取り戻せると言う思いが、後悔を晴らせるかもしれないと言う予感がありました。
社長専属マネージャーとして競馬関係もお共しながら競馬会を勉強して行きます。
馬主になるには規定の年収と財産がなければなれません。
競馬で儲ける事が出来るのはほんの一部に過ぎません。重賞レースG1で何度も優勝し種馬や種牡馬になれれば大きな儲けとなりますが、多くの馬はどこかで行方不明となり所在が掴めなくなります。飼っていればお金がかかり、どこかで処分されると言うことです。
馬主とは本当の意味で馬が好きか、名誉が欲しいかでしょうか。
この仕事のおかげで大学時代に付き合っていた”加奈子”と再開するが加奈子はバツイチで一人の息子を抱えていた。加奈子は北海道でファームを営んでいる父親の元で働いていて、サラブレッドの生育も行っていました。加奈子の息子は我が家で育ったサラブレッドに乗りファーム経営を助けたいと、騎手になることを夢見ます。
山王社長には愛人と息子がいことが次第に明らかになりますが、この愛人には馬を見る目が長けていて、自分の親父が馬主と知らない息子も母親の血を継承していました。
奇しくも、母親が亡くなり、その葬儀で親父の存在を知ることにます。
血統と言うのは良ければ良いとならず、血が濃ければ必ず良馬が産まれるとは限ら無いのですが、産まれた環境(ファーム)や調教場所、そして馬に乗るジョッキー、様々な出逢いで馬は成長します。この成長の見方も早咲き、遅咲きなどの判断を見極める事になります。
レースシーンのリアリティーと迫力のある文章が読み進める眼を先に先に追われて行きます。まるで、テレビ中継の画面が脳裏に浮かび実況のように言葉が流れて、ロイヤルを応援したくなります。
世代交換が起きそうな時、”さわり”と、優しい音が聞こえました。
馬の血、ジョッキーの想い、そして馬主の夢の継承。
調教師も、牧場スタッフも、ファンも、競馬にかかわる全ての人達が、いまこの時代にある「希望」を次の時代へと継承する。
過去から未来へ、前の世代から次の世代へ、今日から明日へ、親父から子供達へ風のように柔らかいその音は、最後のページをめくる終えた時に聞こえました。