『哲学実技のすすめ-そして誰もいなくなった』- 中島義道
おはようございます😉
図書倶楽部
『哲学実技のすすめ-そして誰もいなくなった』- 中島義道
去りゆく生徒達の立場からの冷静な分析と観察能力に舌鼓を打つ。どちらも正しくて、どちらの論理も理解できる妙な味わい。
「本当の事」を突き詰めることは、他人を傷つけ、返す刀で自分をも傷つける非常に危険な事だと言う認識に至る。「綺麗事」にどっぷり使って傷つく事から身を守らざるを得ないものだが、そこにはある種の生きづらさがあるのも事実。ゼミ生が結局みんないなくなってしまうという結末は、哲学とは何か、真理とは何かという根源的な問いに答えが見つからないということを意味しているのだろう。
それぞれ悩みを抱え哲学に救済を求めてやってきた生徒たちのほうが、じつは何十年と哲学してきた先生よりも強いことばを持っていた、と言うオチが読後感を良くしてくれる。 やはり確固たる安心や救済を与えられるものは宗教なのかな?それは哲学とは対極に位置するのかなと思った。
そんな物から湧き出たのではない、それを追求することであり、智を愛し、他の全てをかなぐり捨ててでも、その真理を追求する。それが哲学者なんだろう。その道を歩くうちに恐らく僕らの周囲から人は去り、荒涼とした景色のみが残る。それでも、その先にあると信じる真理に到達する為に歩みを止めてはならない。それに到達する瞬間は永遠に訪れないと自覚していたとしても。その無駄な歩みの中にしか癒しがない人種というのが確かに存在する。哲学者は苦行者と等しいものか。
自身が唱える哲学が普遍的な真理探求の法などてはなく、著者自身の体験に根差した、個人的な世界の実感と価値体系に過ぎないことも知っている。 しかしそれこそが自らの「からだ」を通して出た「本当の事」であり、哲学とは個人的なものでしか有り得ないのではなかろうか。